ヴォーカリスト・鈴木雅之の「本領」が発揮されたデラックスな3枚組のカヴァー大作(初回生産限定盤は映像を含む5枚組)、それがこの『DISCOVER JAPAN DX』だ。

 はじまりは2011年。この年にソロ・デビュー25周年を迎えた鈴木雅之がオーケストラ・アレンジで制作したカヴァー・アルバムが『DISCOVER JAPAN』。2011年3月11日の東日本大震災という大きな出来事をきっかけに「音楽には、歌には、いま何ができるだろう」という思いが「日本のうた」をDISCOVER=再発見するというこのアルバムに結実し、第53回日本レコード大賞で優秀アルバム賞を獲得するなど高い評価を獲得。全編のオーケストラ・アレンジを手がける服部隆之という最強のパートナーと共に、聴く人の心に感動を与えた作品となった。

 それから10年の歳月をかけて、大切に育んできた『DISCOVER JAPAN』シリーズは計3作。この『DISCOVER JAPAN DX』は、その3枚から厳選されたナンバー、新録音曲、そしてシリーズ以外で歌ってきたカヴァーが収められ、コロナ禍を経験した2022年に“いま、聴いてほしい”と鈴木雅之が願うナンバーが集大成されることとなった。

 Disc1に並ぶのは、新録音「怪物」(YOASOBI)からはじまる10曲。もう一曲の新録音「明日への手紙」(手嶌 葵)、そして「エイリアンズ」(KIRINJI)、「接吻」(オリジナル・ラブ)など、平成から令和へと至る「日本のうた」が収められている。鈴木雅之は最新曲のひとつとして「怪物」をセレクトした理由を「ラヴソングという意味でYOASOBIの楽曲は(この時代で)群を抜いていると思う」と語る。「ラヴソングの王様」を堂々と自称してきた、ソロ35年目の鈴木雅之の矜持、審美眼が発揮されたセレクトであり、そこには「いまの鈴木雅之」も描かれている。

 「君は薔薇より美しい」(布施 明)ではじまるDisc2は、いわば昭和編。オリジナル・アーティストには美空ひばり、欧陽菲菲、ちあきなおみ、坂本 九という時代を越えて愛され続けるレジェンドが並び、さらにアマチュア時代から同時代の空気を感じてきたチューリップ、RCサクセション、桑名正博の代表曲の鈴木雅之流カヴァーが収められている。1981年デビューしたスターダスト☆レビューの「木蘭の涙」を新録音しているのも「時代を併走してきたアーティスト」の名バラードへのリスペクト。そして小林 旭の「熱き心に」は、この年月の間に帰らぬ人となった大瀧詠一という大きな存在への感謝も込められている。

 その大瀧詠一がプロデュースしたラッツ&スターの「Tシャツに口紅」の新録音ソロ・セルフカヴァー・ヴァージョン(大滝詠一の貴重なオリジナル・コーラスをDISCOVER)が最後に収められたDisc3。『DISCOVER JAPAN』シリーズとは別に、様々なチャンスを活かして歌いつないできた「日本のうた」、そしてシンガー・ソングライターと新曲の制作をコラボレーションする際に、同時に歌ってきたそのアーティストの代表曲のカヴァーを収めた全12曲。鈴木雅之のもうひとつのDISCOVERヒストリーが詰まっている。例えばガロの「地球はメリーゴーランド」は、若き日々には日本のフォーク/ロックにも影響を受けてきた鈴木雅之ならではの再発見。オリジナル・アルバムには未収録だったナンバー、最新リミックスも収録された、ファンにとっても貴重な1枚となっている。

 鈴木雅之はかねてから「自分の原点はカヴァーにある」と語り続けてきた。
「名曲をカヴァーするときにも、ソングライターに曲を依頼するときにも、その世界観を受け止めた上で、いかに鈴木雅之の色に染め上げることができるか、それを磨いてきた35年だよね」(鈴木雅之)
 シャネルズ/ラッツ&スターがドゥーワップ/ロックンロール/R&Bをカヴァーすることでスタートしたことはもちろん、ソロとなってからは大澤誉志幸、山下達郎、小田和正、そして近年の水野良樹 (いきものがかり・HIROBA)に至るまで、ソングライターの書き下ろし曲に挑む際にも、広い意味で「カヴァーを極めてきた」。それがヴォーカリスト・鈴木雅之の「本領」なのだ。
「日本のうた」をDISCOVERし、自分自身をDISCOVERし、そして2022年という「いま」をもDISCOVERする。どこか懐かしさも感じられる、服部隆之によるオーケストラの贅沢なサウンド・スタイルも、デジタルな時代にあっては、まさにDISCOVER。
 ちなみにアーティスト写真や初回生産限定盤のジャケットにあしらわれている「チェス」には、服部隆之と「対局」するかのように紡がれてきたシリーズへの思い、鈴木雅之自身も聴く人も一手ずつ動かし、時代に動かされてきた「人生のひとこま」への思いも込められている。しかも撮影に使用されたチェスは有田焼というこだわりの逸品。

 新旧の音楽に時空を越えてアクセスできる時代だからこそ、鈴木雅之の審美眼、鈴木雅之流に染め上げるヴォーカル力、その「本領」が、聴く人にとって「2022年の再発見」を呼んでくるに違いない。
Text by 渡辺祐